いつもの時間

放課後の誰もいない教室はやけに静かだった。
窓際の席に座ってぼんやりしていると、窓から差し込むオレンジ色の日差しが優しくて心地良い。ついうたた寝しそうになって俺は慌てて首を振った。
机の上に広げられた作詞用のノートは白紙のままだ。今日はどうにも作業がはかどらない。
俺はちらりと壁に掛けられた時計を見上げた。あいつが先生に呼び出されてからもうだいぶたっている。いつも授業をサボりまくっているから自業自得と言えばそうなのだろうけれど、下手をすれば留年とかそういうことになるのかもしれない。
別に一緒に帰る約束をしたわけではないし、さっさと先に帰ってしまえばいいのだろうとは思ったけれど、やはりあいつが何を言われているのかが気になった。
(ったく、さっさと戻って来いよな……)
俺は心の中でこっそり悪態をつくとノートを閉じた。
と、その時。
ふと上から手を伸びてきて無造作に俺の眼鏡を奪っていった。
「………おかえり」
「俺のために待っててくれたんだ?」
「別にお前のためじゃない。次の曲の詞を考えていただけだ」
「うっわ、冷たい言葉。機嫌悪ぃのな。こっちは先生に散々絞られて落ち込んでるってのに」
あいつがいつもと全く変わらない様子でへらへら笑っていたので俺は少しほっとした。とりあえず悪い事態にはなっていないらしい。
「その割には全然反省してるようには見えないけどな。で、何だって?」
「とりあえずは補習で勘弁してくれるってさ。ったく、テストでは全然問題ない点数取ってるってのにひでぇよなー」
「自業自得だろ。せいぜい勉強に励んでくればいいさ。んで、いいから俺の眼鏡返せよ」
俺は手を伸ばしてあいつの持っている眼鏡を取り返すと掛け直した。
「眼鏡してない方がいいのに。いっそコンタクトにしてみれば? お前結構かわいい顔してるから女の子にモテると思うよー?」
あいつのからかうような口調に思わずムッとしてしまう。全く、こっちは本気で心配してたってのにあいつは全然そんなこと分かってないんだ。
「うるさいな。女なんて別に興味ねーよ。俺は今は音楽だけやれればいいんだ。第一、女関係で苦労するのなんてお前の見てるだけで十分だからな」
こいつは本当に女にはモテる。本当にムカつくくらいに。こいつに群がる女たちは果たしてこいつの本性を知っているんだろうかと思ってしまう。確かに外面はいいけど性格は最悪なのに。
「お前って本当に色気ねーよな。まぁ、お前の素顔を俺だけが知ってるってのもそれはそれでいいけどね」
「はぁ? 言ってる意味が分かんねーよっ」
俺が眉をひそめると、あいつがクスリと笑って言った。
「悪い虫が付かなくて安心するってことだよ」








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sara



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