オルゴール


「マスター、この紙は?」
不思議そうな顔で、カイトが手に取った楽譜が印刷された紙。
「あれ、まだ使ってないのがあったか」
俺がそういうと、カイトは首をかしげた。
「使ってない、ですか?」
「うん、これ、見て分かるとおり楽譜だろ」
「はい。でも、楽譜にしては不思議な感じがしますね」
そうカイトが言うのも仕方ない。ずっと行替えすることのない一本道の楽譜に俺は指を滑らせた。
「オルゴールだからな」
そう説明すれば、カイトの瞳が輝きを増す。
「そんなのがあるんですか?」
「ん? ああ、そうだけど」
「聞きたいです!!」


「・・・・・・」
うん、まあ、これを見つかった時点でそうなることは予想がつくよな。
「うーんと、このオルゴールの中に、・・・お、ちょうど一枚あった」
1メートルにもなる長さの紙をセットしなおし、俺は横についたハンドルを回す。

「マスターの、曲ですか?」
「かなり、初期のな」
自分で音を並べて、初めて形にした曲。

「延々鳴らすのは面倒だな」
「俺がやります!」
俺から、オルゴールを受け取り、カイトがぐるぐると楽しそうにハンドルを回す。
「なんか、初めて聞くのに懐かしい感じがします」

「そっか」

初めて作った曲を、今歌ってくれるカイトが演奏している。
それは俺だけには、とても神聖なものに映る。

1メートルという長さのペーパーロールだというのに、カイトは何度もその曲を鳴らしたがった。
「好きなのか?」
「はい、それに」
「それに?」

今聞けば稚拙な面が見えるそれだというのに、臆面もなく言い切ったカイトは微笑んだ。
「これが、マスターの原点で、俺の原点なんでしょ?」


「・・・・・・・・・」
確かに、ピアノロールの画面を見た時、ある種の感慨はあったと思う。
懐かしかった、声を聞く前から惹かれていた部分はあった。

けれど。



「でも、お前は特別だろ」
小さく、反抗してみてから、俺は思わず逃げ出そうとして。
「うわ」


失敗した。



「一緒に、聞きましょう。あとで、これに歌詞を付けて、一緒に歌いましょう」


とっても上機嫌なカイトの声が、俺の耳の後ろから聞こえる。
俺の腰に回された腕は、オルゴールを持ったまま。

「は、はなせ」

抵抗の声を上げるけれど、本気のカイトはびくともしない。
しかも。

「!」
うなじに、顔を寄せるな!


「大好きですよ、マスター」
上機嫌なカイトに解放されたのは、何度も何度もオルゴールの曲が繰り返されたあと。









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ペーパーラウンド型ので、マスターの作曲の原点。
なんか、イメージが青ですね、みたいな。





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