ひとやすみ。

遠く、低く、聞こえる、音。
規則正しく繰り返されるソレを、自分は良くしっている。

……ん? あ、ああ…

霞がかった空のように。
ぼんやりとただよっていた意識のピントが徐々に正確になってゆくのがわかった。
断続的に。
けれど、寝ぼけた耳に繰り返し届けられる電子音。
はふぅ、と小さく欠伸をしながら、俺は寝転んでいたソファーの上でぐっと腕を伸ばす。

「……スッキリするもんだな」

そう、繰り返されていたのは目覚ましの音。
妙にやる気を出して音作りに集中したのはいいが、サビの調整が今ひとつうまくゆかず気がつけば空は当の昔に白んでいた。
ちゃんと描いた形になるまでは気持ちが悪いので、寝るつもりなど毛頭なかったのだが。
「マスターの顔、白いです。少し休んだ方がいいです!」……と、促すというよりは、笑いながらも怒るという器用な態度を示すカイトに、かなり強引にソファーまで引きずられて。

「ちゃんと、お望みの時間に起こしますから」

といいさしながら、晴れの間にしっかり日干ししたタオルケットをかけてくれる(妙に芸が細かくなったな)カイトに促されて、仕方なく少しだけ仮眠したのだ。
不承不承だったものの、やはり体には相当疲労が蓄積されていたらしい。
お日様の香りにさそわれるように、あっというまに深い眠りにおちてしまった。

ちらり、と部屋の時計をみて確認する。
うん、2時間ほどの休憩だったがとても意識がクリアだ。

「さて………続きをやるか」

ゆっくりと立ち上がり、電源をつけたままのパソコンの前に移動する。
早く完成させて……ちゃんと、歌わせてやりたいからな、なんて。
ヤツが聞いたら全力でタックルしてきそうなことを思いながら(本当に大型犬だよな)。
ひゅいん、という音でスリープモードから復帰するモニターを見つめる。


………。
………。
…………………………。


「あ、マスター起きたんですか? 俺ちゃんと目覚ましセットしましたよ~!」

ほめてほめて! といわんばかりに、目を輝かせるカイトの後ろには、やっぱり気のせいか大きな尻尾がぶんぶんと見え隠れ。
突進しそうな勢いで近づいてきた無邪気な笑顔のカイトを俺は――


ぱっこーん!


「……いい音だな。さすが中身がないだけある」
「うぇぇーーーっ!? マスター酷いっ! なんでぶつんですかっ!」

両手で額を押さえ、恨みがましく見つめてくるカイトの視線を受けながら、俺は盛大にため息をついた。

そうかそうか。
全く気がついてないのか。
はははは……俺か? これは俺が悪いのか?

――違うよなぁ?



「午前と午後の区別もつかないのかお前はーっ!!」




モニター画面の右下の数字は、アナログのかけ時計よりも確実に時間の経過を教えてくれる。


――14時間ノンストップ爆睡。





そりゃスッキリするはずだよ、な……。
ふうーと、もう一度深々とため息をついた俺には。
いまだ額を押さえながら唇をとがらせて、ぼそりと呟いたカイト声など、当然届いていなかった。



――だって起こせるわけないじゃないですか……あんなに、無防備な顔で寝てるほうが悪いんです。








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shima



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