くるり、ひとまわり。

どうしよう。

幾度目かの言葉が胸の奥に落ちる。
声には出さない疑問を何度繰り返してみたところで明確な答えが返ってくるわけがない。けれども、つい思考は「どうするべきか」という振り出し地点で無限ループを繰り返してしまうのだ。
いっそ事実に気がつかなかれば良かったのかもしれない、なとどいうのはただの逃避なんだろうな。
思い出してしまった以上無視を決め込むのもなんだか居心地が悪い。
たぶん、本人自身は気がついていない……いや、正しくはその事実が何を意味するのか分かっていないはず。

どうしよう。

別にここまで思い悩む必要なんて全くないのだろう。
自分だって他の人間から相談されようものなら、思わず「そんなことで悩むのか?」と笑ってしまうだろう。そんな他愛のないことなのだが……。

「……どう、しよう……」
「何が、ですか?」
「………!?」

はっと顔を上げると、やわらかな青い前髪を揺らしながら、陽だまりのようにゆるりと笑いながら覗き込んでくる彼の顔があった。
いつのまに声に出していたのだろう。
自分の呟きに対して、真剣に「俺にできることなら手伝いますよ」……という耳触りの良い音に、やっぱりいい声してるなぁなどと思ってる自分は、やっぱり相当目の前の存在になじんでしまっているのかもしれない。
いやなんていうか、いまさらと言うか。
こう……あらためて口にするまでもないことだろうとか思ってしまうと、行動することが億劫になるというか。
――いや、違う。
何かをしなくちゃいけないんじゃないか……と。
意識してしまう自分が、妙に気恥ずかしくなってきてしまうのだ。
「ああ……うん……」と生返事を返しながら、やっぱりきちんとしておきべきだよなと思い直す。

「……カイト」
「はい」

視線を合わせた自分に応えるように、彼はぴっと姿勢を正す。
ほんとうに付き合いのいいやつだな。

「……誕生日おめでとう」
「……………はい?」

え? …と、青い目をぱちぱと瞬かせ微かに首を傾げる。

「でも俺、できたのって2月だし、今じゃないですよ」

できた……という表現もなんだが、それは開発であって生まれた日ではない。
目の前の相手が、自分の知っている彼として生まれたのは……家に来た日が、今日だから。
などと思ってしまったわけなのだが………やっぱり、わざわざ言うのはかなり変だっただろうか――と、自分の行動を後悔した瞬間。
どすんっ、と体に衝撃が走った。

「ますたぁ~~!」
「………うぐっ……」

ふにゃぁ~とふやけた顔のカイトが、泣きそうな声で突撃してきたのだ。
ああ、こら、全力でしがみつくなと何回言えば!

「俺、俺、マスターがいいです。マスターがマスターになってくれてすごく嬉しいです、幸せです、ずっとずっとがんばります!!」
「………はいはい」

柄にもないことをしたと思わなくもないけれど、本当に嬉しそうな相手の表情を見ていると、なんだか少しだけ救われたような気分になってきた。
――ただ。その後興奮冷めやらず、尻尾を振りながらじゃれついてくる大型犬をなだめるのにかなりの苦労したことが問題だったけれど……。









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